Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~ ピアノに新たな息吹をつなぐ人たちへのスペシャルインタビュー《修理編》
2022年、銀座・山野楽器の創業130周年を機に展開してきた『Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~』は、山野楽器が運営する音楽教室で使用してきた100台のピアノが時を経てその役目を終えようとした際に、生まれ変わって第二の人生を迎えられないかを考えたものでした。
山野楽器の想いは、愛するピアノへのお手紙という形でたくさんのご応募をいただき、このプロジェクトとなって始まりました。厳正なる審査を経て生まれ変わったピアノをお届けしております。
今回、100台のピアノを修理、調律を施し、一軒一軒お届けするということは私たちにとっても壮大なプロジェクトとなりました。そこで、このコーナーではこのプロジェクトに携わったさまざまな人の想いを取材し、その一部をご紹介したいと思います。
第二回目のインタビューは、「Piano Stories 100~100台のピアノ物語~」のすべての電子ピアノを調整してくださった修理技術者の方に、今回の企画について楽器への想いを語っていただきました。
100台のピアノ物語スペシャルインタビュー
株式会社 ピアノアート
中野 安信さん
このプロジェクトはピアノに再び息吹を与える「修理」をするところから始まります。今回、電子ピアノの修理を担当してくれたのは、キャリア35年のベテラン職人、中野安信さんです。
中野さんは、ヤマハカスタマーサービスから業務委託を受けている株式会社ピアノアートに所属し、鍵盤楽器の修理、調律のスペシャリストとして活動されています。
中野さんと音楽との出会いは小学校時代にさかのぼります。故郷である岩手県のキノコ栽培の手伝いをしながらお小遣いを貯め、ギターを購入したころから、音楽に目覚めていったそうです。「あの頃は松山千春さんに憧れ、歌手になろうとよく作詞作曲をしていました」。
中学へ進学するとブラスバンド部に入部しますが、「ある時ピアノの調律師が学校にいらして、先生から音楽室に案内するように言われたときに、『調律ってどんな仕事なのだろうか』と思い、そこで初めてこの仕事に興味を抱きました」。
その後、将来設計を考える中で遠い小学校時代のことを思い出し、直す仕事、それも愛用者の多いピアノの修理の仕事をしよう、と思い立ったそうです。
今回、山野楽器から74台の電子ピアノの修理をお願いしました。いつもは現役のピアノたちを修理する仕事が、今回は一旦役目を終えた電子ピアノを生き返らせるプロジェクト。それについて中野さんは「普段と変わらない気持ちでやりました。普段の修理現場ではお母さんに立ち会っていただき、実際に弾かれるお子さんはそこにはいらっしゃいません。どんな弾き方をしているのだろうかと思いを巡らしながら修理をするのですが、それと似た感覚ですね」と今回の応募者を想像しながら修理に当たったといいます。
電子ピアノの寿命は「大事に使って20年くらい」。今回の主な修理はやはり鍵盤部分や、特に使用頻度が高い右側のペダル部分だったそうで、鍵盤はすべて新しいものに取り換え、新品同様に仕上げてくれました。
「今回修理を担当しましたが、当選された方はどんどん弾いてピアノの音色を楽しんでほしいです。万一また具合が悪くなったら直しますので、とにかく弾いてあげてください」と、まるで我が子を思うような気持ちでピアノへの想いを語ってくれました。
ピアノ愛好者をサポートする中野さんは、ピアノ自身にとってもなくてはならない存在に違いありません。
【文・森本 嘉彦】