Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~ピアノに新たな息吹をつなぐ人たちへのスペシャルインタビュー《指導者編》
2022年、銀座・山野楽器の創業130周年を機に展開してきた『Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~』は、山野楽器が運営する音楽教室で使用してきた100台のピアノが時を経てその役目を終えようとした際に、生まれ変わって第二の人生を迎えられないかを考えたものでした。
山野楽器の想いは、愛するピアノへのお手紙という形でたくさんのご応募をいただき、このプロジェクトとなって始まりました。厳正なる審査を経て生まれ変わったピアノをお届けしております。
今回、100台のピアノを修理、調律を施し、一軒一軒お届けするということは私たちにとっても壮大なプロジェクトとなりました。そこで、このコーナーではこのプロジェクトに携わったさまざまな人の想いを取材し、その一部をご紹介したいと思います。
第三回目のインタビューは、「Piano Stories 100~100台のピアノ物語~」の生徒さまが使用したピアノがあった音楽教室の指導者の方に、楽器への想いを語っていただきました。
100台のピアノ物語スペシャルインタビュー
山野楽器 ヤマノミュージックサロン池袋
クラシックピアノ講師 小方 五月(おがた さつき)さん
小方さんが勤務するヤマノミュージックサロン池袋(以下YMS池袋)は、JR池袋駅東口から徒歩5分の至便な場所に位置し、約50校(2022年11月現在)ある山野楽器の音楽教室の中でも、有楽町校、東京校(現在の大手町校)に次ぐ3番目の歴史を誇ります。
小方さんは音楽大学大学院卒業後すぐにピアノ講師の道に進みます。4歳から1歳下の妹と一緒に実家のピアノで腕を磨くと、ピアノは家族同然の存在になっていきました。そんな思いから、幼いころからピアノの先生になることを目指し練習に励んでいましたが、夢へのきっかけは図らずとも、14歳の時の父親の急死だったといいます。それも姉妹で出場したあるピアノコンクールの3日前の出来事。気落ちしたのは当然ですが、ピアノの存在が姉妹を慰め、「父が今後の生きるすべとして、ピアノを教えることを後押ししてくれました」と感謝しているといいます。
YMS池袋では、月曜日と木曜日、YMS三鷹で火曜日と水曜日に指導を行っています。生徒数は約50人。(2022年11月現在)大人と子どもの生徒数はほぼ同数で、「お子様の目標はとにかく上達することで、教材を使って教えます。大人の方はお気に入りの曲、思い出の曲を上手に弾きたいという傾向があります」と、受講動機もさまざまです。
今回の山野楽器の企画は、教室で使われていたピアノが生まれ変わり、新たな息吹を吹き込まれ新しい道を歩んでいくというものですが、実際にそのピアノを使い教えてきた立場の小方さんは、どうみていたのでしょうか。
「以前YMS池袋で使用していたものは、20年以上慣れ親しんできたものでした。使えば使うほど愛情が深まり、段々と音が成熟していきます」と話します。
こうやって役目を終えて去っていくピアノもあれば、新しく仲間入りするピアノもあります。YMS池袋にはインタビューの5か月前に新しいピアノが届きました。生徒さんは喜んで使っていますが、一部の生徒さんには戸惑いも見られます。受講する生徒さんはそのピアノを毎日弾いているわけではないので、時としてなじまない部分があります。「講師の立場として、そんなことを感じると、生徒さんとピアノの関係が深まって、思い通りの音が鳴ってくれるように、私たち講師陣はできる限り弾いてなじませようとします」と双方の立場を慮(おもんぱか)り、日々指導に当たっているといいます。
一昔前の習い事の世界では、指導者は厳しい存在と思われてきましたが、「今はそんなことはありません。生徒さんの性格や状況を考え、柔軟に対応しています」と、インタビュー中、終始明るい声で話しをしてくれた小方さん。「この記事をご覧になってピアノを習いたいと思っていただいた方が1人でも増えればうれしいです。ぜひヤマノミュージックサロンでお待ちしております」と新しいピアノとともに心から歓迎しますと話してくれました。
【文・細谷 正勝】