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Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~ピアノに新たな息吹をつなぐ人たちへのスペシャルインタビュー《調律師編》

2022年、銀座・山野楽器の創業130周年を機に展開してきた『Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~』は、山野楽器が運営する音楽教室で使用してきた100台のピアノが時を経てその役目を終えようとした際に、生まれ変わって第二の人生を迎えられないかを考えたものでした。
山野楽器の想いは、愛するピアノへのお手紙という形でたくさんのご応募をいただき、このプロジェクトとなって始まりました。厳正なる審査を経て生まれ変わったピアノをお届けしました。
今回、100台のピアノを修理、調律を施し、一軒一軒お届けするということは私たちにとっても壮大なプロジェクトとなりました。そこで、このコーナーではこのプロジェクトに携わったさまざまな人の想いを取材し、その一部をご紹介したいと思います。

第四回目のインタビューは
「Piano Stories 100~100台のピアノ物語~」のすべてのグランドピアノとアップライトピアノを調整した山野楽器の調律師が、楽器への想いを語ります。

100台のピアノ物語スペシャルインタビュー
株式会社山野楽器
事業推進統括部 サービス事業部
調律担当 チーフ技術リーダー 平郡 克実(へぐり かつみ)

この企画の目玉は、これまで使っていたピアノを修理・調律し、生徒さんに愛されたピアノたちを次の世代に活用してほしい、いわば幸せをリレーしていくということ。今回音楽教室で入れ替えの対象となったのは100台以上。当初の役目を終えた功労者(ピアノ)たちは、まず電子タイプとアコースティックタイプに大別され、電子ピアノは外部に修理を委託、残りのグランドピアノ14台とアップライトピアノ12台の計26台の調整は山野楽器のピアノ調律師の5人を中心に受け持ちました。調律というと「単に音程を合わせるだけと思われがちですが、ピアノの持つ本来の良さを保って、長く愛用するために行うものなのです」と平郡(へぐり)チーフリーダーは言います。

ところで調律の際にチェックするパーツ数はどれだけあるのでしょうか。平郡さんによると部品の数はグランドピアノで約8000個、アップライトピアノだと5000~8000個に及ぶようです。触って音を聞けば問題点がすぐわかるそうで、そこから1つずつ調整していくことを考えると、何とも地味で根気のいる仕事と言えます。さらに直ったのかどうかの判断が難しく、使用する人それぞれにクセがあるために、これが正解というものはないと言います。そこで、オリジナルの部品を充分にロスなく活かしているか、すべての音色やタッチが均一に同じレベルにそろっているかが一つのメドになるそうです。

平郡さんは横浜生まれの現在47歳。小さいころから家にあったアップライトピアノに親しみ、調律前後の音色の違いに興味を持ったそうです。その時に早くも「将来は調律師になる」と心に決めていて、それを聞いた両親はビックリ。「とにかく大学だけは卒業して」と懇願されたそうです。大学卒業後はヤマハピアノテクニカルアカデミーで1年間、調律を学び、現職場に。現在は厚労省管轄の国家検定「1級ピアノ調律技能士」の資格を所持。日本ピアノ調律師協会会員、メーカー資格も各主要メーカーの技術研修をクリア。ヤマハでは最高位の「コンサートグレード」の資格も持ち、まさに「ピアノ調律の第一人者」と呼ぶにふさわしい技術者となりました。

今回の企画に携わり、期限内での大量手入れの難しさや企画自体の反響の大きさ、修理して納入した当選者の姿に感激したことなど、たくさんのことを学んだそうです。特に納品立ち会いの際は、相手の喜ぶ姿を見て感動し「自分も楽しませてもらい、一瞬で苦労も忘れました」と明かしてくれました。過去の経験によると、ピアノは持ち主が替わると当然、設置環境やメンテナンスの頻度が変わりピアノへの変化が起こるようでそれが気がかりだとか。そうやって変化をし、成長をしていくピアノたちとともに次の世代にもピアノの演奏を長く楽しんでいただけることを平郡さんは祈っています。
(年齢は取材当時)

【文・細谷 正勝】