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Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~ピアノに新たな息吹をつなぐ人たちへのスペシャルインタビュー《ピアノ配送編》

2022年、銀座・山野楽器の創業130周年を機に展開してきた『Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~』は、山野楽器が運営する音楽教室で使用してきた100台のピアノが時を経てその役目を終えようとした際に、生まれ変わって第二の人生を迎えられないかを考えたものでした。
山野楽器の想いは、愛するピアノへのお手紙という形でたくさんのご応募をいただき、このプロジェクトとなって始まりました。厳正なる審査を経て生まれ変わったピアノをお届けしました。
今回、100台のピアノを修理、調律を施し、一軒一軒お届けするということは私たちにとっても壮大なプロジェクトとなりました。そこで、このコーナーではこのプロジェクトに携わったさまざまな人の想いを取材し、その一部をご紹介したいと思います。

第5回目のインタビューは
「Piano Stories 100~100台のピアノ物語~」の企画に当選された方々にピアノをお届けした配送会社の方に、プロジェクトへの想いを語っていただきました。

100台のピアノ物語スペシャルインタビュー
共立ラインサービス株式会社
専務取締役
佐藤 昌男さん

共立ラインサービス株式会社
営業統括部 総合支援室
取締役 室長
高(こう)勇貴さん

写真左:佐藤 昌男さん、写真右:高 勇貴さん

今回の「ピアノストーリーズ100~100台のピアノ物語~」企画の立役者の1つ、実際にお客さまの元へピアノを届けるアンカー役を担う運搬会社「共立ラインサービス株式会社」。お話を伺ったのは、同社専務取締役の佐藤昌男さんと取締役の高(こう)勇貴さんです。同社は今年で55年目を迎える歴史ある運搬会社で、売り上げの約80%を楽器運搬が占め、楽器の中でも鍵盤楽器の需要が圧倒的で、絶大な実績と信用を兼ね備えた会社です。

今回の山野楽器の企画について佐藤専務は「正直、山野楽器さんやるな、という思いが強いです。我々は『運ぶ』という、楽器購入者(今回でいう当選者)と最後に接する担い手ですが、いつもお客さまの笑顔を目の当たりにするのです。そして『無事に届けていただきありがとうございます』といった感謝の気持ちを同時にたくさんいただきます。今回の企画はそういった機会を山野楽器さんから与えていただいたと思っています」と感無量の表情を見せてくれました。実はこの背景には同社と山野楽器との昔からの信頼関係が大きく関わっているといいます。佐藤専務は「(山野楽器の)今回の企画の窓口の方が、かつてピアノの営業部に所属していてトップセールスマンと聞いていました。その方は、我々がピアノをお届けするときに一緒に立ち会われるのです」。小売店の営業マンが最後の搬入の立ち会いまで行うのは異例のこと、出来るようでなかなか出来ないそうです(佐藤専務)。決して安い買い物ではないピアノを、最後のお届けまで見守る姿とピアノに対する愛情に、共立ラインサービスのスタッフも胸を打たれたといいます。実は佐藤専務もかつて奥様の実家が楽器販売会社を営んでいた関係でその会社に入社し、ピアノの搬入時に営業マンとして立ち会いをしていた経験があるとのこと。それだけに、山野楽器の社員がそれを平然とやってのける姿勢に「すごい会社だな」と思ったそうです。

佐藤 昌男さん

話を聞いているうちに、仕事に対するプライドが言葉の端々に垣間見ることができました。高取締役は「運搬というサービスと品質にはこだわっています。我々は宅配便と違い、お宅の中まで入りピアノを搬入します。その際にご自宅の家具やピアノ自身を傷つけないように配慮するのはもちろんですが、自分たちの身だしなみにも気をつけています。特に夏場の搬入は正直汗が噴き出るくらいになるのですが、お宅に入るときは一度汗をぬぐい、靴下も汚れていないかチェックし、立ち会っていただくお客さまが不快にならないように気をつけています」と話します。

高 勇貴さん

佐藤専務は「ピアノはそうそう買い替えたりはしない(高価な)ものなので、運ぶ際はお客さまと一期一会の気持ちで接しています。その時に『ありがとう』という言葉をかけられるのが仕事のモチベーションになっています。」
一方で、ピアノを何らかの事情で手放さなくてはならないお客さまに接する時もあるといいます。高取締役は「我々が到着し、ピアノを手放されるまさにその時に、『30分だけ時間をください』と言われたことがあるのです。そして、そのピアノを泣きながら一心不乱に弾き始めたのです。その時のことを思い出すと今でも涙がでてきます」。とエピソードを披露してくれました。ピアノには他人にはわからない色々な思いが込められているのでしょう。

最後に佐藤専務は自らの会社のことを「楽器の運搬はウチだけにしかできないという気持ちでやっています。そしてこの業界は人材難ですが、これからも若い人が輝けるような会社にしていきたいです」と未来に向けたメッセージを伝えてくれました。
ただ運ぶだけでなく、ピアノへの気持ち、購入したお客さまの気持ち、ときには手放す方の気持ちを汲みながら、心の通った仕事をやってのける「職人集団」という言い方が当てはまるのではないでしょうか。
創業から55年、まさに「ピアノストーリーズ」を毎日、目の当たりにしているイキイキとした会社と言えるでしょう。

※役職は取材当時

【文・森本 嘉彦】