Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~ピアノに新たな息吹をつなぐ人たちへのスペシャルインタビュー《最終回》
2022年、銀座・山野楽器の創業130周年を機に展開してきた『Piano Stories 100 ~100台のピアノ物語~』は、山野楽器が運営する音楽教室で使用してきた100台のピアノが時を経てその役目を終えようとした際に、生まれ変わって第二の人生を迎えられないかを考えたものでした。
山野楽器の想いは、愛するピアノへのお手紙という形でたくさんのご応募をいただき、このプロジェクトとなって始まりました。厳正なる審査を経て生まれ変わったピアノをお届けしました。
今回、100台のピアノを修理、調律を施し、一軒一軒お届けするということは私たちにとっても壮大なプロジェクトとなりました。そこで、このコーナーではこのプロジェクトに携わったさまざまな人の想いを取材し、その一部をご紹介したいと思います。
インタビュー最終回となる今回は
「Piano Stories 100~100台のピアノ物語~」の企画に当選されたお客さまに、プロジェクトへの想いを語っていただきました。
100台のピアノ物語スペシャルインタビュー
学校法人 浦和済美学園 浦和幼稚園
理事長・園長
長沼 威(たけし)さん
学校法人 浦和済美学園 浦和幼稚園
副園長
吉田 裕美(ひろみ)さん
創立者の故・長沼依山(いざん)氏は、「ゆめのおさなご 子ども民話集」「アンデルセン童話集」などを手掛けた童話作家で、同園の園歌も作詞しました。教育方針は「子どもは子どもらしく、子どもらしい心を大切に」。現園長の長沼威さん(73)は「この年齢の子どもには、日ごろやっていることを快くやらせてあげることが大事。見て、聞いて、触れることすべてが教育」と言います。
写真:長沼園長先生
今回のピアノストーリーズ100の企画を知ったのは、普段ラジオに無縁の園長先生が、車のラジオでこの企画の告知が流れていた際に知ったそうです。ちょうど園には6台のアップライトピアノと電子ピアノ、オルガン各1台があり、音楽に触れ合うには申し分ない環境ですが、ふたが重くケガを予防するために、園児によるピアノのフリー使用は禁止。「ならば、この機会に開閉が楽な電子ピアノをもう1台希望し、園児たちに好きな時に使ってもらえたら」と決意し、この企画に応募したと振り返ります。
この思いの背景には、幼稚園と音楽との関わり方にあります。園児にとって、音楽や歌はなくてはならないものと話すのは副園長の吉田先生。「歌を歌うことで言葉の意味や季節を感じたりし、みんなで明るく楽しい雰囲気になります」。その際になくてはならないのがピアノ。お誕生会、お遊戯会など園の行事には欠かせないと言います。
時々、ごっこ遊びで先生役をしている園児たちを先生方が見ていると、「先生はピアノが弾けてすごいんだよ!素敵なんだよ」というイメージを持たれているんだな、と思うことが多く「園児たちも自由にピアノが弾けたらどんなに楽しいだろう」と思い返していたところでした。
Piano Stories 100の企画は、園にとってまさに千載一遇の企画だったことでしょう。
めでたく当選した電子ピアノが届けられたのは、みんなで食べる楽しい給食の日で、この日は園児全員で給食の準備するために、ピアノが届いたことは目に入らなかったといいます。食事を終え、見慣れないピアノに気づいた子どもたちから大歓声が。手でそっと触れる子、得意げに弾き出す子とさまざまだったそうです。
園長先生は届けられたピアノを見て、「(以前)弾いていたのはどんな有名人だったのだろうか。(このピアノに触れた)園児の中から、これからどんなすごい才能の持ち主が出てくるか。こんなことを想像するとワクワクします」と興奮気味に語ってくれました。そして園児の前では、「前に使っていた人たちの愛情を、つなげていきましょうね」と優しく伝えたそうです。
めでたく生まれ変わったピアノは園児たちに囲まれ、次世代に受け継がれました。そのバトンを渡された園児たちが、このピアノとふれあい、どういう成長を遂げていくのか。浦和幼稚園にとって、ピアノのドラマは始まったばかりです。
【文・細谷 正勝】