COLUMNコラム

楽譜の未来。

ライター / コラムニスト:小寺信良

GVIDO

『すべてのプレイヤーのために初学者にとってもプロフェッショナルにとっても、
音楽を奏でるすべての者にとって、楽譜は切っても切れない関係である。』

筆者は子どもの頃からジャズピアノを習うという風変わりな経歴を持つが、
一見自由気ままに演奏していると思われているジャズでも、練習中には楽譜を使う。
音楽を学ぶためのガイドとして、また本番演奏のガイドとして、これほど普遍的に使われている手法は他にない。
GVIDO(グイド)という不思議な名前を持つデバイスは、この楽譜をデジタル化して収蔵、表示する。
そして音楽を演奏する際には、紙の楽譜を超える能力を発揮し、演奏者の協力なパートナーとなるのだ。
ここではその魅力に迫ってみたい。
GVIDOとは何か、と聞かれれば、見開き型の電子ペーパー端末だと言える。
電子ペーパーは電子書籍端末でよく使われるディスプレイで、液晶ディスプレイのようなバックライトを持たない。
したがって紙に書かれたインクと同じように、外光からの反射によって、自然な見え方をするのが特徴だ。
GVIDO
サイズは片面だけで13.3インチ。
楽譜として一般的なサイズであるA4の見開きが、ぴったり同じサイズで表示できる。
中央部が柔らかく折り曲げられるようになっており、画面を合わせて閉じれば、一般的な楽譜ファイルと変わらないサイズだ。
本革製の専用のカバーもあり、演奏会などステージ上で広げても、違和感のない見え方となる。
GVIDO
楽譜データは、書類ファイルとして一般的なPDFが使える。
紙の楽譜をスキャンしてPDF化したものを取り込むことができるほか、専用ストアからのダウンロード購入もできる。
内蔵メモリは8GBで、MicroSDカードも使えるため、スコア譜など大量になりがちな楽譜も、大量に持ち歩ける。
メニュー表示のために画面の右下に2つのボタンがあり、操作は専用のスタイラスペンで行なう。
ペンによる書き込みも秀逸だ。
ここがポイントだと書き込んだ丸印も、練習で問題をクリアしてしまえば、あとは見づらいだけとなってしまう。
紙の楽譜ならそれも我慢するしかないが、GVIDOの書き込みは、消しゴムツールでいつでも消すことができる。
GVIDO
またこの書き込みは、1つの楽譜に対して複数のレイヤーに分けることもできる。
例えば同じ楽曲でも、指導者が変わればチェックポイントも違うはずだ。指導者ごとにメモを分けておけば、
あとで見直した時に混乱することがなくなるだろう。
「ブックマーク」機能も便利だ。
これは楽譜に付けられる「しおり」のようなもので、今月のレッスンはいつもこのページからスタート、
という場合には、瞬時に目的のページにジャンプすることができる。
GVIDO
ページのめくり方も簡単だ。
本体の左右、やや下の部分に2つの「穴」があるが、この部分を塞ぐようにタッチすると、タッチした方向に楽譜が進む。
楽譜は通常右側に進んでいくので、右側がページ送り、左側がページ戻しとなる。
GVIDO
ただそうは言っても、演奏中にいつも都合良く右手が空いているとは限らない。
そこで左手でも譜面を送れるよう、左側の上部にもセンサーが付いている。
GVIDOにはこうした、「演奏者の都合をよく分かっている」機能が満載されている。
次は演奏中に使える便利機能に絞って、具体的にご紹介しよう。
ページ先読み機能
例えばピアノ演奏時の譜めくりを考えてみよう。
次のページに楽譜をめくるとなると、だいたい右ページの終盤あたりで次に行きたいところだ。
だが楽曲によっては、「右ページ終盤部分が特に忙しい」ということが起こりうる。
こうなると、その忙しい部分の前に譜めくりするしかないのだが、そこでめくってしまうと、一番忙しい部分の譜面が読めないことになる。
そこで使えるのが、この先読み機能だ。
GVIDO
この機能がONになっていれば、左側のページが過ぎ去ったあとの自由なタイミングで、先に譜めくりしてしまえばいい。
すると右側のページは残したまま、左側のページだけがめくれるのだ。
こうして右下の難関を乗りきったあと、もう一度譜めくりすると、今度は右側のページが先に送られる。
つまりこの機能は、見開きの片側半分づつを先にめくっていく機能だと言える。
1ページ目の配置をずらす機能
上記の機能のデメリットは、一度設定してしまうと、その楽曲中は常に見開きの片方ずつを譜めくりしていかないといけなくなることである。
つまり譜めくり動作が2倍になってしまうのだ。
そういうむずかしいところは1箇所だけなんだよ、という時には、その難しいところを見開きの中に移動してしまえばよい。
ここで使えるのが、「1ページ目の配置をずらす」機能だ。
これはその名の通り、1ページ目を見開きの左側からスタートさせるのではなく、見開きの右側からスタートさせる。
つまり、見開きの左右の組み合わせを、ずらすことができるのだ。
こうすればページ変わり目の難所が、見開きの中に収まることになる。
ちょっとしたことだが、演奏者にとっては絶大な威力を発揮するはずだ。
紙の楽譜ではできないことの1つである。
ページ進行の編集機能
難易度は高いが、強力な機能がこれである。
譜面中には、リピートやダル・セーニョ、ダ・カーポといった記号によって、譜面の特定の場所へジャンプする場面が出てくる。
このとき、1ページめくれば済むだけならいいが、3ページも4ページもジャンプしなければならない場合、
いかに電子楽譜と言えども、めくるのが間に合わないことも起こりうる。
その時には、「ページ進行の編集」機能が使える。例えばダル・セーニョ記号があるページのすぐあとに、
セーニョが記載されているページを編集で入れ込んでしまうのだ。
リピート記号で数ページ戻る際も、リピートの先頭ページからリピート終わりまでをコピーして、割り込みで入れ込んでしまう。
GVIDO
こうして反復記号に従って楽譜をコピーしつつ並び替えていくことで、とにかくずっと先へ先へとページを送っていけば演奏できる譜面に、自分で作り替えてしまうわけだ。
うっかり自分で編集したことを忘れて慌てないよう、ペンでメモ書きでもしておけば完璧だ。
いくらページが増えても、電子楽譜なら厚さが膨らんだり、散らかったりすることはない。
思う存分、演奏しやすい楽譜に編集すればいいのだ。
一度使うとやめられないフットペダル
演奏会などでは、「譜めくり」を人にお願いすることがある。
だが普通は譜めくりさんと入念にリハーサルする時間もないし、なんとなくタイミングが合わずイライラするといったことが起こる。
そんなときは、両手塞がっていても足で自分で譜めくりできるならしたいと思う人も多いはずだ。
こうした願いを叶えるのが、別売のフットペダルだ。
GVIDO
適度な重さがあるため、足で蹴飛ばしてどこかへ行ってしまうこともない。
ペダルもしっかりした「底突き感」があるので、踏んだ反応が読み取りやすい。
プロの演奏者でも、譜めくりさんに気を使ってしまう人は多いようで、ペダルによる譜めくりの便利さを知ってしまうと、やめられないという。
GVIDOとフットペダルは、Bluetoothによるワイヤレス接続。
コンサートホールなら電波障害が起こることは少ないだろうが、屋外やライブハウスなどでワイヤレスに頼るのは危険だ。
そこで安全のため、有線でも接続できるようになっている。こうした細かい心遣いがうれしい。
十分な堅牢性
こうした電子機器は、落として壊れるというのが心配になるところだ。
スマートフォンを落として、ガラスを割った経験がある方も多いだろう。
特に楽譜となれば、吹奏楽やビッグバンドでは譜面立てにおいて使うこともあるはずだ。
こうした状況で、楽器が当たってしまったり、移動中に引っかかったりして、譜面台ごと倒してしまうケースが散見される。
GVIDOのディスプレイには、そもそも割れるようなガラス部品は使われておらず、ある程度のねじれにも強い構造となっている。
外装のカーボンの堅牢性と相まって、落としたり倒したりした程度ですぐ壊れることがないよう、入念な落下試験を経て製品化されているという。
だからといって乱暴に扱って貰っても困るのだが、1度でも落としたらアウト、ということではないようだ。
GVIDOがいかに音楽プレイヤーにとって有用かという点はご理解いただけたかと思う。
そしてこれが楽譜の前提となっていけば、最終的には音楽の構造そのものが変わっていくのではないか、という気がする。

例えば作曲家にしてみれば、よりコンパクトに楽譜をまとめるため、反復記号で楽曲を折りたたむという感覚があるのではないだろうか。
例えば西洋音楽のパターンには当てはまらない民族音楽や現代音楽のような作品では、単純なリピートではないのだが、
楽曲の構造理解を優先してリピートとして書いといて、あとで現場で指示しながら作っていく、というパターンもあるように思う。


現場できちんと指示できる演奏はいいだろうが、楽曲が楽譜だけで一人歩きし始めると、
直接指導を受けない演奏者には、細かいニュアンスまで伝わっていかないこともあり得る。


またこうした音楽を正確に採譜すると、あまりにも長大な譜面になってしまい、楽曲の普及に支障をきたすということも考えられる。
複雑なリピート記号発達の背景には、こうした「流通側の事情」もあったのではないだろうか。


だがGVIDOのような電子楽譜が普及していけば、楽譜も遠慮なしに長手方向に伸ばしていける。
曲作りそのものが、譜面の都合から解放されて、変化していく可能性も出てくるだろう。
楽譜が時間軸にそって流れ続けるスタイルに変化することで、もっと大きな枠で曲全体の表現や意味付けを捉えることが、可能になるのではないだろうか。


近年、電子楽器やDTMの発達により、楽譜を使わないタイプの音楽制作が爆発的に増えた。一方で楽譜が中心の音楽世界では、
なかなかデジタル化の恩恵が受けられず、古い慣習にとらわれたままになっている部分もある。


もちろん音楽には、変わらないからいい部分もある。それをどうバランスするかが難しいところではあるが、
音楽の記録ツールである楽譜には、革命を受け入れる余地があってもいい。


GVIDOがもたらすのは、単純な便利さだけではない。その先にある可能性まで見据えた時に、本当の価値が見えてくる。